Volumioを長く続けるために私が考えていること

Volumioを使ってくださる方には、これからも長く音楽を楽しんでもらいたいと思っています。そのためには、ソフトウェアを改良し、製品を支え、音楽の聴き方の変化にも対応していかなければなりません。一度よくできた音楽プレーヤーを作れば、その後もずっと使ってもらえるというわけではないのです。始めた頃の私は、これほど多くのことを考えるようになるとは想像していませんでした。オープンソースとしてコードを公開し、仲間と改良していく楽しさから始まったプロジェクトが大きくなるにつれて、開発を誰が担うのか、その仕事をどう支えるのか、私がすべてを決めなくても続けられるのか、という問いが身近になりました。
Volumioを長く続けるために、何を変え、何を大切にしていくのか。私たちは、同じ時期に生まれたほかのプロジェクトから学び、OEMの仕事やPrimo、Motivoの開発で試行錯誤しながら、その答えを探してきました。オープンソースへの考え方も、ハードウェアへの取り組み方も、会社の形も、その経験を通して変わってきています。
自分のために作るところから使う人の方へ
2013年にVolumioを始めたとき、私にとっては、自分が使いたい音楽プレーヤーを作ることが楽しみでした。試したいことを試せる場所でもありました。当時、私が見ていたほかのオープンソースのネットワークオーディオ・プロジェクトも、多くは個人の趣味から始まっていました。自分の考えを形にし、美しいコードを書き、難しい技術的な問題に挑むための場所として、趣味のプロジェクトには大きな価値があります。私自身も同じ楽しみを知っています。
そうしたプロジェクトでは、作り手の関心が自然と内側へ向かいます。自分の考える理想の構造にしたい、この部分をもっときれいに書きたいと、誰かに使ってもらうことより、自分が納得するものを作ることが中心になる場合もあります。それは、そのプロジェクトが何を目指しているかの違いでしょう。ところが、使ってくれる人が増えるにつれて、私の関心も変わっていきました。皆が何に困り、何を気に入っているのかが気になるようになったのです。良い音で再生したい、操作は簡単な方がいい、あちこちにある音楽を一つの使いやすい画面で扱いたい。そうした声を聞いていると、作るべきものが少しずつはっきりしてきました。
私が見てきたプロジェクトの中には、コードの品質を追求するあまり、利用者にとっての使い心地や、要望への対応が後回しになっていると感じるものもありました。内部の完成度に強くこだわるほど、変更を受け入れにくくなることがあります。Volumioでは、間違えることも受け入れながら、使う人の反応を聞いて直していく方を選びましたし、実際、間違いはたくさんありました。コードの品質はその使い心地を支えるものです。当時のRaspberry Piは性能もかなり限られていましたから、快適に音楽を聴けるようにするには、良い技術と工夫が必要でした。技術上の判断をするとき、その先で利用者が何を経験するのかを考えるようになったのです。
幸運だったのは、初期から驚くほど優秀な協力者に恵まれたことです。SpaceXで働く技術者や、通信会社のCTOを務める人なども参加してくれました。彼らにとっても、Volumioは自分の知識を試せる場所だったのでしょう。その力を、限られた機器でどうすれば音楽を気持ちよく聴けるか、という課題に向けることができました。ある一つの決断ですべてが変わったわけではありません。試して、反応を聞いて、直すことを繰り返すうちに、オーディオを愛する人たちの知恵を集めた方が、私一人の製品づくりの直感よりも頼りになるとわかってきました。その知恵が実際に製品へ反映される場を作りたいと思うようになったのです。
最近、Volumioと似た始まり方をして、私たちに匹敵する規模まで育った別のプロジェクトを知りました。考え方はVolumioとはかなり違いますが、共通していたのは、使う人のために何かを実現したいという、はっきりした目的があることでした。その経験からも、Volumioのやり方だけが正解だとは思っていません。利用者に何を届けたいのかが明確であれば、違う方法でも発展していけるのでしょう。目的があるから、次に何を作るかを決められますし、自分たちの仕事が人にどう役立ったかを確かめられます。私には、それが創業者一人の関心を超えて、プロジェクトが育つ条件のように思えます。
開発を支える仕組みと初代Primo
OEMがなくても、Volumioは小さなソフトウェアのプロジェクトとして続いていたかもしれません。ただ、そのままでは、取り組める仕事も、人々の音楽体験に貢献できる範囲も限られていたでしょう。私が望んだのは、そこからさらに良いものを作り、もっと多くの人に役立つところまで進むことでした。そのためには、優れた技術者や専門家に加わってもらい、開発へ継続して投資できる体制が必要だと考えたのです。
ソフトウェアは作るときにも、その後の維持にも費用がかかり、利用者が増えるほど支える仕事も大きくなります。その資金と体制を得る役割を担ったのが、他社のオーディオ機器にVolumioの技術を提供するOEM事業でした。複数のメーカーに共通の基盤を提供することで開発費を分担し、一社だけでは難しかった規模の投資を、共通のソフトウェアへ向けられるようになりました。技術者を迎え、継続して改良するための力がついてきたのです。
同時に、コードの外にも仕事があると学びました。ストリーミングサービスと連携するには、技術を理解し、約束を守り、長く付き合える会社だと相手から認めてもらう必要があります。画面上では再生ボタン一つでも、その裏には会社同士の関係があります。たとえば、QobuzやTIDALとはパートナーとして、公式の開発用ソフトウェアであるSDKを使った連携を行っています。音楽を使いやすく届けることと、相手が求めるコンテンツの保護を両立させる必要があるのです。
Spotifyとの間でも、公式SDKを利用できるよう、働きかけを続けてきました。2025年12月には提携担当者と話すことができ、SDKの提供に向けて情報を交換する段階へ進みました。その時点では提供が約束されたわけではありませんでしたが、話を進める道が開けたのです。その間にも利用者のための対応は続き、2026年8月にSpotify側の認証方式が変わった際には、プラグインを改修し、9月に新しいバージョンを公開しました。ただし、ロスレス再生にはまだ対応しておらず、その実現に向けてはSpotifyとの話し合いを待っている段階です。
OEMの仕事は自社のハードウェアを作るきっかけにもなりました。他社の製品にVolumioが使われるようになると、自分たちの考える組み合わせを、完成品として届けたいと思うようになったのです。それが、2018年末に発売した初代Primoでした。Raspberry Piで機器を作ることを楽しむ人がいる一方で、そうした作業には関心がなく、ただ音楽を聴きたい人もいます。Primoではソフトウェアとハードウェアをこちらで整え、箱から出して短い準備で聴き始められるようにしたかったのです。製造を一緒に進めたのも、以前からOEMで関係のあったHi-Fiメーカーでした。
最初のロットは発売から48時間以内に売り切れました。問い合わせがひっきりなしに届いたことを覚えています。あの反応はうれしかったですね。自分で再生環境を組み立てない人にも、私たちの考える音楽の楽しみ方を届けられるという手応えを得た製品でした。
事業を増やして続けてきた
Primoのような製品を作るために、私たちは、それまでの仕事で得た収入を次の仕事へ回してきました。OEMからVolumio Shopへ、Shopから自社のハードウェアへと進み、有料のソフトウェアサービスも、開発を続けるための収入になっています。最初から今の事業の形が見えていたわけではなく、有料のニュースレターやレビューのチャンネルなど、試したものの、うまくいかなかった企画もあります。何なら人に喜んでもらえて、事業としても続けられるのかは、実際にやってみなければわからないことが多くありました。
複数の事業があったことには、助けられました。過去には、一つの事業の不調で倒産寸前まで追い込まれたことが少なくとも3度あり、そのときは、ほかの事業の収入が会社を支えてくれました。ただし、仕事を増やすと、それだけ人と時間が分かれます。どれか一つに全力を注げないことで、実行の速さや質に影響した面もあったと思います。会社が大きくなるほど、新しい企画に人を回すことは、すでに利用者や取引先のいる仕事から、その人の時間を移すことになります。
ですから今は何かを始める前に、以前よりもよく考えます。十分な価値を生んでいない仕事は、やめる必要もあります。自分が時間をかけたものを終わらせるのは難しいのですが、続ける理由を説明できないまま、人やお金を使い続けることはできません。OEMでも、取引先の要望を優先するために、Volumio全体に必要だと思っていた改良を後回しにした時期がありました。収入を得ることと、自分たちの進みたい方向に開発することの両方を、どう成り立たせるかは、今も考え続けていることです。
新しい取り組みに慎重になった今も、私が失いたくない原則は、Internal Disruption(内側からの創造的破壊)です。今うまくいっている事業に代わり得る新しい事業や製品、アイデアを、自分たちで探し続けるということです。成功している仕事ほど愛着が湧きますが、その仕事を守ることに集中しすぎると、市場で必要とされなくなるまで同じことを続けてしまうかもしれません。他の誰かに問い直される前に、今の事業を自分たちで問い直したいのです。私にとって多角化は複数の収入源で会社を支える方法であるとともに、新しい試みから学び、Volumioが次にどうあるべきかを探し続ける方法でもあります。
Motivoが製品になるまで
自社製品でも、開発にどれだけの時間が必要かを見通すのは難しいものでした。Motivoを作っていた頃のことを思い出します。私は、レコードプレーヤーに触れるときのような、音楽との距離の近さをデジタルの製品でも作りたいと思っていました。操作する機器も含めて、音楽を聴く時間を楽しめるものにしたかったのです。2019年、ミュンヘンのHigh Endでブースを設営していたとき、量産品に近い試作機が届きました。保護材を外して初めて実物を手に取り、それまで約1年かけて取り組んできたものが、ようやく目の前にあると感じました。姿も、手に持った重さも、よく覚えています。その時点では、同じ年の9月には販売したいと考えていました。
しかし、製品として届けるまでには、さらに時間が必要でした。設計にはコミュニティの600人を超える方から寄せられた意見を取り入れましたし、生産に進もうとしていたところで、パンデミックと半導体の調達難にぶつかり、計画をいったん止めざるを得ませんでした。再開するときには、より速いプロセッサーを使えるようになっていたので、設計を大きく見直し、ほかの部分も改良しました。さらに、あの外観を製品として成立させるには、部品や組み立ての寸法のずれを厳しく抑える必要があり、量産に向けた詰めにも時間がかかりました。
最終的にMotivoを発売できたのは2024年です。試作機を手にしたときの喜びは本物でしたが、そこから先にも、これだけの仕事が残っていました。良いものを思いついて動く形にした後に、調達し、製造し、使ってもらえる状態まで仕上げていく。製品を作るたびに、私たちが引き受ける仕事の範囲を実感します。
ハードウェアの設計を自分たちの仕事に
初代Primoの後、私たちはRivo、Preciso、Primo Plusとハードウェアを作り続けてきました。ソフトウェアから始まったVolumioが、自分たちでオーディオ機器を設計できるようになるまでには、いくつかの転機がありました。ただ、いちばん大きく変わったのは自信だったと思います。ハードウェアを作り始めた頃、その仕事は私たちの得意分野から大きく外れていました。ソフトウェアには深い専門知識がありましたが、私はハードウェアの設計を、とても複雑で難解な、ほとんど黒魔術のようなものだと思い込んでいたのです。それが変わったのは、現在ハードウェアの開発を率いているDario Murgiaと出会ってからです。それ以降に発売した製品は、すべて彼と、彼が築いてきたチームと一緒に開発してきました。
経験を積むにつれて、新しい製品は考えられるすべての点で前の製品を上回らなければならない、という単純な目標を立てるようになりました。最初は二の次に思えるようなこと、たとえば基板そのものの美しさにも気を配り始めました。さらに、製品の内側にイタリアの詩の一節を印刷するといった、ささやかな個人的な工夫も加えるようになりました。世代を重ねるごとに、新しい技術を取り入れ、設計をもう一歩先へ進めることも、自分たちに課してきました。
自信が増すにつれて、目指すところも高くなっていきました。その多くはDarioと、彼が率いるハードウェアのチームのおかげです。今の自分たちにできることが、目指せることの限界ではないと気づくと、もっと大きく踏み出せるようになります。
Rivo Ultraはその変化をよく表しています。工業デザイン、細部へのこだわり、設計の高度さ、性能のどれをとっても、私たちがこれまでに作った中で最高の製品です。主要な部分はどれも、これまでの私たちの設計から一歩進んだものです。仕上がりは、製品を見ていただければ伝わると思います。
細部へのこだわりは並大抵ではありません。たとえば、内部の電源の設計に丸1年をかけました。リニア電源にはそれほど特別なところはなく、外部のメーカーから買えば済んだと思われるかもしれません。それでも私たちは仕上がりを最初から最後まで自分たちの手で決めたかったのです。そのためには、放熱も含めて、あらゆる細部に気を配る必要がありました。サーモグラフィーで数百枚の画像を撮り、それをもとに放熱の設計まで細かく調整しました。
ですから、この変化は一度の飛躍で起きたものではなく、学び、自信を積み重ね、最初に想像していたよりずっと先まで進めると気づいていく中で、少しずつ進んでいったものだったと思います。今では、ハードウェアの設計は私たちにとって得意分野の外にある仕事ではなくなり、最も高い目標を掲げている分野の一つになっています。
ソフトウェアとハードウェアを一緒に設計する
Volumioはほかの人が設計したハードウェアの上で動くソフトウェアとして始まりましたが、今はソフトウェアとオーディオのハードウェアを一緒に設計できるようになりました。両方の技術を組み合わせることが、なぜ私たちの強みになるのか。例はたくさんありますが、なかでもそれがよくわかるのは次の二つだと思います。
一つ目はCPUの管理です。私たちはCPUの周波数ガバナーを細かく調整できます。周波数ガバナーは処理の負荷に応じてプロセッサーの動作をどう変えるかを決めるソフトウェアです。CPUはエンジンに似ていて、アイドル状態ではわずかな電力しか使わず、重い処理が求められると周波数を上げます。
この切り替えをどう管理するかは、デジタルオーディオが処理されるときの条件や、ジッターを低く保てるかどうかを含めて、システム全体の振る舞いに影響することがあります。最適な設定はCPUの種類や、その機器に固有の熱特性など、いくつかの要因で変わります。ハードウェアの設計と、それを直接動かす低レイヤーのソフトウェアの両方を自分たちで手がけているので、汎用の設定に頼らず、システム全体として調整できるのです。こうした最適化は、両方の分野に深い専門知識があってはじめてできるものです。
二つ目の例は私たちが最終的に目指していることを、さらによく表しているかもしれません。それはできる限り良い音楽体験を届けながら、使う人にとって余計な面倒を取り除くことです。HDMI端子を使ってI2S信号を伝えるI2S over HDMIは、要求の厳しいオーディオ愛好家の間で使われることが増えてきた接続方法です。I2Sはもともと機器の内部で使う通信インターフェースとして設計されたもので、別々の機器をつなぐためのものではありませんでした。HDMI端子をこの用途に使うことは一般的になりましたが、どの信号をどのピンに割り当てるかを定めた共通の規格はありません。DACのメーカーによって実装が異なるため、利用者が正しい設定を自分で探し当てなければならないことがよくあります。
私たちはその煩わしさをなくしたいと考えました。そこで、I2S over HDMI出力を備えた私たちのデジタル製品には、技術的な詳細を理解していなくても、接続するDACに合った設定を選ぶだけで済むセレクターを用意しています。操作画面の上では簡単な機能に見えますが、実際には、マイコンで動くファームウェア、I2Sコンバーターを制御するソフトウェア、設定を利用者が選べるようにするOSのソフトウェアという、性格の異なる三つの層のソフトウェアがハードウェアとやり取りしています。私たちはこれらが一体として動くように設計しました。
私にとって、ソフトウェアとハードウェアを一緒に設計する本当の価値は、技術的な性能を高めることだけではなく、深い技術の知識を使って、技術を意識させないようにすることにあります。そうすれば、使う人はいちばん大切なこと、つまり音楽を楽しむことに集中できます。
使い続けてもらうための仕事
製品を届けた後にも、仕事は続きます。私は、できる限り長く使えるように設計し、製造し、支えることは、メーカーの責任だと考えています。購入してくださった方への責任ですし、電子廃棄物の少ない世界を次の世代へ渡すことにもつながります。ただ、ネットワークオーディオでは、機器そのものが壊れていなくても、周囲の技術が変わることで、対応が難しくなる場合があります。長く支えたいという意思だけで解決できないことが、実際の製品には起きるのです。
Volumio 4への移行でも、以前に発売した製品のWi-Fiが問題になりました。新しいLinuxカーネルで使うには、Wi-Fiチップのドライバーを更新する必要があったのですが、そのチップはすでに生産を終了していました。メーカーにとって、古い部品のために開発を再開する理由は乏しくなっていたのです。オープンソースのコミュニティでその仕事を引き継ぐ人が現れれば、解決への道が開けるかもしれませんが、実際にそれを担う人が必要です。私たちはサポートを続けたいと思っています。それでも、更新した結果、Wi-Fiが動かなくなるかもしれないソフトウェアを配布するわけにはいきません。利用者にとっては更新前より困った製品になってしまいます。
始めた頃、支えるべき製品は一つでしたが、今は8製品を超えています。発売した製品が増えるほど、維持しなければならない組み合わせも増えます。本体はまだ十分使えるのに、どこかの小さなソフトウェアが維持されなくなったために、対応が難しくなることもあります。製品の寿命はその製品の中だけでは決まらないのです。自社のハードウェアについては、少なくとも5年間、できれば合理的に続けられる限り長くサポートすることを社内の目標にしています。そのためには、設計するときから、部品やOS、それを動かすソフトウェアがどのくらい維持されそうかを考えておかなければなりません。それでも私たちだけでは決められないことが残るので、どこまで対応できるかを見極めて、約束する必要があります。
オープンソースを今どう考えているか
こうした経験をしても、私は今なお、オープンソースは人類が生み出した最も優れた仕組みの一つだと強く信じています。誰かの知識や仕事を公開し、別の人が利用し、改良して、さらに次の人へ渡せるので、一人ひとりの貢献がその場限りで終わらず、時間をかけて積み重なっていきます。Volumioはその考え方から生まれました。最初からコードを公開していたので、興味を持った人が中を調べ、変更し、周辺に新しいものを作れましたし、初期の協力者が参加できたのも、そのためです。私たちが何をしているかを見てもらえることが、コミュニティとの信頼にもつながりました。
今もVolumioの機器で動くコードの大部分を調べることができ、ソフトウェアを組み立てるビルドの仕組みも透明です。何が動いているのかを知るために私たちの説明をそのまま信じる必要はなく、知識のある人が自分で確かめられるという透明性には、確かな価値があります。ただ、将来も安心して使えるかという話になると、もう一つ考えておきたいことがあります。すべてのソースコードを手元に持っているとして、それを使って、実際にどこまでのことができるでしょうか。
コードを読めることと、脆弱性を修正し、ハードウェアへの対応を保ち、外部サービスとの接続を動かし続けることには、かなりの隔たりがあります。利用者の誰もがそれを自分で行えるわけではありませんが、知識と時間と資金があれば行動できます。その可能性が残されていることを、私はオープンソースの価値として考えています。会社が開発をやめても、誰かが引き継げるかもしれません。しかし、引き継ぐことが可能であることと、実際に引き継ぐ人が現れることは、別の話です。完全に非公開のシステムでも会社が何十年も維持する場合はあるでしょうし、オープンソースのプロジェクトが維持されなくなることもあります。公開されているという条件だけでは、その先の継続までは決まりません。
利用者や、製品に採用するメーカーにとって、公開によって増えるのは、確かめる手段と、必要になったときに取り得る選択肢です。その選択肢を実際に使えるようにするには、仕事を担える人や組織が必要であり、先ほどのWi-Fiの問題も、そこにつながっています。そして、維持する仕事の大きさはプロジェクトの成長とともに変わります。小さなコードを少人数で扱う頃と、何年分もの変更が積み重なり、多くの機器やサービスに依存し、大勢の利用者を抱えるようになった後では、必要な作業が違います。過去の設計から生じる制約にも対応しながら、全体を動かし続けなければなりません。
Volumioの中でも、思いがけない変化がありました。初期には基盤部分への貢献がとても大きかったのですが、プラグインストアを始めると基盤部分への貢献は減り、人々の関心は、自分が欲しい機能や個別のプラグインへ向かうようになったのです。私がそこから学んだのは、参加する人が増えても、維持に必要な仕事のすべてに、同じように人が集まるとは限らないということです。使いたい機能を作る仕事と、その下で全体を支える仕事には、それぞれ担い手が必要でした。公開してコミュニティに任せれば、必要な作業が自然に埋まっていく、と期待することはできません。
AIについても考えています。コードを生成し、理解する能力が高まるにつれて、ソフトウェアを開発するための費用や仕事の成り立ちが変わっていきます。その中で、オープンソースはさらにどのような価値を提供できるのか、公開によって得られるものを改めて考える必要があると感じています。現在のVolumioでは公開する対象を以前より選んで考えるようになりました。たとえば、モバイル機器での音楽再生や、音楽との出会いに役立つライブラリや部品を公開し、Volumioの外でも役立ててもらうことに関心があります。同時に、中核のプラットフォームには会社を持続させられるだけの非公開部分も残していく必要があると考えています。
オープンソースがVolumioの出発点だったことは、これからも変わりません。ただ、その出発点を大切にする方法は、以前とまったく同じ公開の仕方を続けることだけではないと思います。どこを開けばほかの人も力を発揮できるか、その技術を維持する仕事をどう成り立たせるかを考えながら、透明性や選択肢を増やすことと、技術を支える組織を続けることを、一緒に考えていきたいのです。
いま使われているVolumioとその次を作る
自分たちで作った仕組みも、いつまでも同じ形では使えません。現在のVolumioの基本構造は、ほぼ8年にわたって改良しながら使ってきたもので、ここまで発展させてこられたことを誇らしく思います。ただ、これからやりたいことの中には、今の構造では難しいものが出てきました。サウンドバー、スピーカー、ハイエンドのシステム、そして今までとは違う機器でも、自然につながる使い心地を作りたいと思っています。そのために、Volumio 4を出した今、次のプラットフォームを全面的に書き直し、これからの10年を支えられる基盤にしようとしています。
Volumio 1から2への移行でも、全面的な書き直しを経験しました。その経験から、時間のかかる仕事を急いでも良い結果にはならないとわかっています。新しい基盤で、今の機能を一通り使えるようにするだけでも時間が必要ですから、Volumio 4のサポートと改良を続けながら、次の開発を並行して進めています。新しいものが十分にできていないうちに、利用者を移したくはありません。移行した人には、音楽が早く再生される、操作が簡単になる、安定して動くといった良さを感じてもらえる必要がありますし、使い方を最初から覚え直してもらうことも避けたいと思っています。
さらに、音楽の聴き方そのものも変わります。始めた頃は手元のファイルを再生することが中心でしたが、今はストリーミングサービスが、音源だけでなく、推薦やプレイリスト、操作画面まで提供しています。それらが良くなっていけば、同じ曲を再生できるだけでは、Volumioを選んでもらう理由は薄くなるでしょう。私たちが力を入れているCORRDも、この変化を受けた取り組みです。Primoでは再生環境を組み立てる手間を減らしましたが、今は、聴きたい音楽を見つけるところにも、まだ取り組むべきことがあると考えています。
その一方で、私たちが頼っている外部のサービスも変わります。相手がAPIを変更したり、事業方針を変えたり、他社のシステムへの対応をやめたりすることは、私たちも実際に経験してきました。決めたのは私たちでなくても、利用者に事情を説明し、不満を受け止めるのはVolumioです。周囲のすべてを自分たちで管理することはできませんから、変化が起きたときに対応できる力を持ち、その先でも使ってもらえる理由を作り続けたいと思っています。私が長期的に最も恐れているのは、特定の技術が古くなること以上に、Volumioが変われなくなることです。
もっとも、変わればそれでよいわけでもありません。以前のやり方に長くこだわりすぎたこともありますし、商業的に魅力がありそうだという理由で、Volumioの目的とのつながりが弱い機会を追ってしまったこともあります。適応しているつもりで、自分たちのやるべきことから離れてしまうこともあり、その見分けは簡単ではありませんでした。事業の形、技術、製品は変えてよいと思っています。そのたびに確かめたいのは、それが音楽を聴きやすくし、聴く時間をより良くすることにつながるか、ということです。やり方については柔軟に、なぜやるのかについては頑固でありたい。公開の仕方を考え直すときも、新しい製品を作るときも、その基準は持ち続けたいと思っています。
私一人で決めない会社へ
そうした仕事を続けるには、私自身も変わらなければなりません。これまで、自分よりずっと優れた専門家に加わってもらうことができました。今のチームを作れたことは、私が最も誇りに思っていることの一つですが、人が増えれば、自然に考え方まで共有されるわけではありません。たとえば、ユーザーに問題が起きると、私はかなり強い切迫感を覚え、早く何とかしたいと、ほとんど自分の問題のように感じることもあります。でも、全員に創業者と同じ感情を持ってもらおうとしても無理があります。
必要なのは、困っている人を大切にするという判断の基準を共有することです。それが伝わっていれば、私とは違う方法でも、同じように、あるいは私より良く対応できるはずですから、原則を文章にし、仕事の進め方を整えています。技術者はコードに、伝える仕事をする人は言葉や見せ方に意識が向きやすいものです。どちらも必要な仕事ですが、私は、皆が実際の利用体験に触れていてほしいと思っています。担当する作業が違っても、使う人が何を経験するのかを共有していれば、それぞれの判断を同じ方向へ向けやすくなるからです。
自分が書いたコードが誰かの機器で動くのを見るのは、今でも好きです。それに比べると、手順や原則を整える作業は、時には退屈に感じます。それでも、任せた相手が自分と違う方法を選ぶことを受け入れ、目指す結果を共有する方へ、私の仕事を移していかなければなりません。今の私の役割はすべての答えを出すことから、チームが自分たちで判断していく方向を確かめることへ変わってきています。私が一つひとつ決めなくなっても、使う人にVolumioらしいと感じてもらえるようになれば、創業者に依存し続けない会社になれると思います。













音楽がもっと自然に人に寄り添うために
Volumioを始めて間もない頃から、これは長い道のりになるのだと感じていました。最初に作っていたのは、技術に詳しく、自分であれこれ試すことを楽しむ人のためのものでした。やがて、音楽を聴く体験の質を大切にするオーディオ愛好家へ、次第に関心が向かうようになりました。今はさらに多くの人に届けたいと思っています。背後の技術を理解しなくても、誰もが使えるものを作りたいのです。私は以前から、最後に確かめたいのは、母にも使えるものを作れたかどうかだと言ってきました。その思いは今も変わりません。
母は音楽が好きでした。私が子どもの頃は、いつも一緒に音楽を聴いていました。でも、音楽を取り巻く技術に気を配ったり、機器を設定したり、そうした面倒なことには付き合いたくなかっただろうと思います。一緒に車のラジオをつけたときのように、ただ音楽を聴きたかったはずです。残念ながら、母は今年亡くなりました。母にVolumioを使ってもらい、ようやくその目標を達成できたのかを確かめることは、もうできません。それでも私はこの目標を持ち続けていて、これからどこへ進んでいきたいかを考えるときには、母のことを思います。
気分を上げたいとき、くつろぎたいとき、音楽にそばにいてほしいときに、自然と手を伸ばせるものを作りたいと思っています。技術がそこにあることを、意識しなくて済むようなものです。私たちは長い時間をかけて、複雑さを一つずつ取り除いてきましたし、大きく前進できたと思っています。それでも、目指すところまで、まだ7割ほどしか来ていないと感じます。そして正直なところ、残りの3割がどんな姿なのかは、私にもまったくわかりません。
10年前に、今のVolumioがどんなものになっているかを予想しようとしても、きっと大きく外れていたでしょう。ストリーミングは業界を変え、スマートフォンは私たちと技術との関わり方を変えました。そして今、AIによって、またまったく新しい展開が始まっています。だから、未来の予測にもとづいて10年先までの計画を立てるのではなく、どのような未来になってもこの目標を果たせる会社を作りたいのです。そのために、Volumioでは、音楽を聴く体験をもっと自然につながるものにするという、一つの考えを中心に置き続けたいと思っています。
今、音楽はあらゆるところにありますが、聴く体験はまだ分断されています。サービスが違い、機器が違い、操作画面も、おすすめを選ぶ仕組みも違うため、聴き手はそのたびに、技術を理解し、どのサービスや機器の組み合わせを使うかを選ぶよう求められます。Volumioには音楽を聴く邪魔をしない存在になってほしいと思っています。聴き手が技術に合わせて動くことを求めるのではなく、Volumioの方が聴き手についていくような存在にしたいのです。
その中で、音楽との出会いはとても大きな部分を占めると思っています。今はこれまでに録音されたほとんどすべての音楽を、すぐに聴ける時代です。それなのに、何を聴きたいのかがわからないことが、よくあります。私自身、ストリーミングサービスを開いて、何百万曲もあるのに、結局はこれまでに何百回と聴いた曲に戻ってしまうことがあります。それは豊かさを感じる体験ではなく、豊かさの中に閉じ込められているように感じます。思いがけない驚きがあり、自分に合っていて、自分にとって意味のある音楽に出会う手助けをするために、技術にはもっとできることがあると思っています。CORRDで作っているものに私が期待しているのも、そのためです。
そして、Volumioという会社の中にも、もう一つ、実現したい変化があります。会社を始めたとき、Volumioの多くは私の頭の中にありました。今では、それはもう不可能ですし、率直に言えば、そうあるべきでもありません。チームに独自の性格が生まれ、自分たちなりの問題の解き方が育っていることは、私が最も誇りに思っていることの一つです。創業者がこう言うのは不思議に聞こえるかもしれませんが、それこそ、組織を作れたと実感できることだと思います。良い考えが今もすべて私から出なければならないのなら、私はまだ組織を作れたとはいえません。
技術についても、同じことがいえます。特定の設計や機器、事業の形、仕事の進め方に、Volumioを結びつけたままにしたくはありません。私たちはすでに何度も変わってきましたから、そのどれかを、変えてはいけないものだとは思えないのです。10年後にはスマートグラスを通して音楽を聴いているかもしれませんし、今はまだ存在しない機器を使っているかもしれません。いつかは脳を通じて直接、音楽とやり取りするようになる可能性だってあるでしょう。そのときにもVolumioがいてほしいと思うのは、新しい技術のすべてに私たちのロゴを付けたいからではなく、その時代にも、Volumioが目指してきたことには意味があると思うからです。
10年後も、利用者の声を丁寧に聞き、自分たちを作り直す勇気を持ち、何百万人もの人にとって、音楽を少し聴きやすく、より意味のあるものにできていたなら、私たちは価値のある仕事をしたと思えるでしょう。その頃にはようやく残りの3割にも届いたと感じられるかもしれません。もっとも、Volumioのことですから、きっとそのときには、考えたこともなかった別の3割があると気づくのでしょうね。
ある日、一人の利用者からメールをもらいました。そこには、ただ、こう書かれていました。
「ありがとう、Michelangelo。Volumioのおかげで、世界が良くなった」
あれは、おそらく私が最も誇らしく感じた瞬間でした。そして、私たちがVolumioでやりたいのは、結局のところ、そういうことなのだと思います。音楽が人に寄り添う時間を届けて、世界をほんの少し良くすることです。




































