定在波対策には、サブウーファーを

定在波対策には、サブウーファーを — 現在の試聴室全景

トップウイング 菅沼です。

試聴室のサブウーファーに関する動画をいくつかあげました。本記事では、動画で触れなかった試行錯誤の過程をまとめます。

そもそもの発端は、自宅で使っていたスピーカー、TAD CE1をそのまま会社の試聴室に持ち込んだことにあります。同じスピーカーなのに、自宅と試聴室で印象が全く異なりました。

部屋が変われば、音も変わる、その通りですが、自宅のスピーカーはこれまでにイベントなどで使ってもいたので、その変化幅は何となくわかります。ただ、試聴室のそれは大変厳しいものだったのです。コントラバスやティンパニ、グランカッサの実在感が薄い。ドラムも、下半分をどこかに置いてきたように上ずって聴こえる。いつも聴いている曲の低域が、あるところですっぽり抜ける感じはありました。

それまで試聴室に問題を感じていなかったわけではありません。試聴室の構造からある程度問題が起きるのはわかっていたので、定番の対策をしました。巨大なベーストラップを入れ、レコードで囲み、正面には吸音・拡散パネル、背面と天井には拡散パネル、床には絨毯を敷いていました。対策としては十分だろうとも思っていました。

その言い訳を、CE1は許してくれませんでした。自宅でどう鳴っていたかを知り尽くしたスピーカーです。同じ曲をかければ、部屋の問題が解決していないことがあらわになったのです。

CE1が、試聴室の問題を暴いた

会社の試聴室は、それなりに防音してあります。床もコンクリートを打ち上げた構造で、音を外へ逃がさない代わりに、室内へ返ってくる音とは正面から付き合わなければなりません。中高域は上述の吸音と拡散で何とかなりますが、数メートルから十数メートルの波長を持つ低域は、同じようにはいきません。巨大なベーストラップにも限界があります。

とくに、どうにもならないのが床でした。絨毯を敷いても、低域にとってコンクリートという高い反射率を持つ素材が消えるわけではありません。だからといって、部屋の容積をさらに吸音材で削っていくのにも限度があります。

自宅は、そういう意味では恵まれていました。防音材はゼロ。音は抜け放題でしたが、周りはお墓でしたから問題ありませんでした。ついでに言えば、断熱材もゼロで、いわば鉄骨に石膏ボードを張り付けただけの家でした。昔、建物の構造計算を行う会社でプログラミングのアルバイトをしていた頃、サンプル取りのため、暖房を切ったあとの室温の下降カーブを自宅で測定したことがあります。後日、その結果を見た社員に「体育館とか、そういうところと同じ特性だね」と言われました。住宅としてはともかく、今思えば音的には良かったのです。どうやら自宅では、部屋が勝手に音を逃がしてくれていた。試聴室にCE1を持ち込んで、初めてそれに気づきました。

以前の試聴室。ベーストラップ、レコードラック、拡散材、絨毯を配置した室内全景。
以前の試聴室

低音がない。だから、発音する場所を増やす

パッシブな対策で限界があるならアクティブに何かするしかない、そこで、次の手として目を向けたのがサブウーファーでした。

サブウーファーというと、メインスピーカーに足りない低音を補ったり、映画の迫力を出したりするためのものだと思われています。もちろん、それも正しい使い方です。しかし今回補いたいのは、スピーカーの低域ではなく、部屋の中にできた低域の山と谷でした。

低域の山谷を減らしたいのに、低域を出す機械を増やす。言葉だけを聞けば、たしかに逆です。でも、増やすのは低音の量ではありません。部屋へ働きかける場所を増やすのです。

以前から、Harmanによる複数サブウーファーの研究は知っていました。異なる位置に複数の発音体を置くと、それぞれが室内モードへ異なる割合で結合します。その合成によって、1つの発音体だけでは顕著になりやすい山谷や、席による差を小さくしていく考え方です。

1台のサブウーファーにも意味はあります。ただ、私が試したかったのは、1台をCE1の低域補助として使うことではありません。異なる2か所に発音体を追加して、部屋の励起の仕方そのものを変えることです。それなら、1台を買って様子を見るのでは仮説を試したことになりません。最初から2台入れることにしました。

2台と決めると、機種選びの条件も変わります。左前方と右後方へ置ける大きさで、それぞれに十分な低域の余裕が必要です。出力だけで選んでサブウーファーが大きくなってしまえば、今度は吸音材の代わりにサブウーファーが部屋の大きさを削ってしまいます。しかも日本市場で、音楽再生用として現実的に選べるサブウーファーは、海外の記事を眺めているときほど多くありません。

以前KEFとの動画取材で、まずKC62を1台、そして2台と増やして聴く機会がありました。

1台目の置き場所を探し、対角へ2台目を足す。そこで印象に残ったのは、低音が増えたことではありません。部屋のピークとディップが目立ちにくくなり、低域全体が圧倒的に自然になったことでした。Harmanの論文で知っていた話が、目の前で現実になったわけです。

その後、2台から1台に戻し、KC62、KC92、Reference 8bの順に聴き比べました。KC92へ替えると、低音の音程が追いやすくなり、押してから引くまでの動きが見える。そこに、無理をして鳴らしていない余裕もある。同じ下限まで出るというカタログ上の数字は変わらないのに、低音そのものの質は想像していた以上に違いました。

KC62 2台で確かめた自然さと、KC92 1台で聴いた質を両方取りにいくなら、KC92を2台にするしかない。密閉で、この大きさなら2台置ける。それでいてCE1の下を引き受ける余裕もある。日本市場まで見渡すと、ほかに現実的な着地点はありませんでした。

一つの低域音源と二つの低域音源の概念比較図

サブウーファーを1台ではなく2台、3台と複数台使うことで定在波対策になるのは、直感的理解が難しいかもしれません。例えるなら、1灯の照明が作った濃い影に、別の角度から2灯目を当てるといったものです。明るい部分が、音圧の高い周波数・位置、暗い部分が、音圧の低い周波数・位置に相当します。1灯目を明るくするだけでは明るいところと暗いところの相対的な差は変わりませんが、別の場所から照らせば、違う角度から影へ光を入れられます。

日本では、低音の量を増やすためではなく、定在波を整えるためにサブウーファーを増やす方法は、まだ一般的とは言えません。ただ、研究論文の中だけの話でもなくなってきました。

大手メーカーであるソニーは、SA-SW9を2台使う利点として、音圧を増すだけでなく、部屋の共鳴による定在波の影響を減らし、滑らかでバランスの取れた低音を得られることを挙げています。ソニーほどの規模のメーカーが、サブウーファー2台の意味を「低音が2倍」と説明せず、部屋との関係まで含めて打ち出したことには、けっこう大きな意味があると思います。

専門店側では、サウンドテックの試聴室にダブルベースアレイが導入されています。前後壁へ複数の低域音源を置く、今回よりもはるかに大がかりな方式です。有力販売店が低域の「量」ではなく「部屋との関係」を実際の試聴室で扱っている。この考え方は、国内でも地味に、しかし確実に広がり始めているようです。

さて、KC92には本体側にも調整機能があります。普通にメインスピーカーへ合わせるなら、内蔵機能と背面のつまみで十分に追い込めます。それでも今回は、外部プロセッサとしてminiDSP Flexを使うことにしました。

この試聴室は、自社製品や輸入取扱製品を評価する場所でもあります。掃除のときにKC92のつまみへ触れてしまい、「元はここから何クリック戻した位置だったか」から始めるようでは、安定した評価環境として運用できません。内蔵DSPの良し悪しではなく、設定値をすぐに復元できる、リコール性が必要だったのです。

miniDSP Flexは、小さな筐体に2入力4出力を備え、4つのプリセットを保存できます。業務用プロセッサまで含めれば、ほかにも選択肢はありますし、自動補正を行う製品もあります。

ただ、これまでの経験上、過度な補正は音場の捉え方まで変えてしまいます。それが良いか悪いかというより、人間の慣れに関わる問題です。今回は、これまで培ってきた感覚を基準として残したいとも考えました。機能と価格のバランスを考えると、miniDSPは必要十分でした。

最初に入手したのは、プリアンプのRCA出力とKC92のRCA入力へそのままつなぎやすい、RCA入出力仕様のminiDSP Flexでした。この時点では、これで素直に終わると思っていました。

2台のKC92の設置写真。左は主聴取位置から見て左前方、右は右後方のKC92。
左前方と右後方、2台のKC92

CE1とサブウーファーを調和させる

2台のKC92は、左スピーカーの左横と、聴取位置の右後方に、対角となるよう1台ずつ置きました。低域は無指向性だからサブウーファーの場所はわからない、とよく言われます。しかし、「無指向性」と「どこへ置いても存在を感じない」は同じ意味ではありません。

最初は、左右で圧迫感に明らかな差がありました。異なる場所から鳴らすことが目的とはいえ、発音体が二つあるように感じてしまっては困ります。2台のゲインと遅延を調整し、左右の圧迫感を均しながら1つの低域として成立させなくてはなりません。予想以上に時間がかかりました。

これは、少なくとも主聴取位置で見た周波数特性だけでは捉えにくい違和感でした。対角に置いた2台の低域が部屋を回るように感じ、ひどいときには車酔いに近い違和感が残るのです。最終的には、後ろから音が出ていると感じさせないところまでは馴染ませることができました。

CE1系ではメインの信号経路にFlexを入れていません。プリアンプからパワーアンプ、CE1への経路はそのままにしたかったからです。したがって、メインスピーカーへハイパスフィルターを入れることも、遅延を与えることもできません。DSPで調整したのは、プリアンプの別出力から分岐した2台のKC92だけです。

CE1はその後、最新型のCE1TXへ更新しました。ここに掲載する測定は、CE1で見つけた問題を、現在のCE1TXに合わせて再調整した最終結果です。発音体を2つ足している以上、「低音をまったく増やしていない」と言えば、そうではないのですが、結果として最低域のレベルは上がりましたが、狙いは低音の量感を一律に足すことではありません。目立つディップを補い、低域全体のつながりを整えることでした。

CE1TX単独とKC92 2台統合後の20〜160Hz周波数特性
CE1TX単独とKC92 2台併用時の低域比較

聴感上も、クラシック、ポップス、ロックを問わず、低域の密度が上がりました。コントラバスや大太鼓だけが大きくなるのではなく、それまで上ずっていた演奏へ、重心が戻ってきました。ひとまず、狙い通りの形になりました。

CE1TXの低域がまとまると、今度はこの2台のKC92を、以前からやりたかったモノラル1本再生にも使えないか、という欲が出てきました。

1本のスピーカーでモノラルLPを聴く

モノラルLPを、1本のスピーカーだけで聴く。2本のスピーカーが作る中央の音像ではなく、本当に1つの発音体からモノラルが立ち上がる形を、ずっと前から一度きちんと作ってみたかったのです。

まずパワードスピーカーを前提に、いろいろ考えました。1本で使うために別のパワーアンプまで用意するのは大げさ(と現在は思っていますが、将来はわかりませんね)ですし、どうせ遊びで始めるなら、CE1TXのメインの信号経路とは違って、メイン側も含めてFlexで全部管理したい。パワードなら、比較的簡単にそこまで持っていけます。

パワードスピーカーそのものは、サブウーファーや手頃なDSPと違って、選択肢がいくらでもあります。だからこそ、候補をどう絞るかが問題でした。ここで役に立つのが、Spinorama(スピノラマ)に代表される現代的なスピーカー測定です。軸上応答だけでなく、軸外応答、初期反射、音響パワー、指向性までをまとめて見るものです。

私見として、これをスピーカーの総合的な音質を順位づけする成績表のように扱うのは違うと思います。音の質感や瞬発力、音楽を聴いたときの魅力まで、測定だけで示せるものではありません。

一方で、少なくとも中高域については、軸外応答と指向性の連続性から、反射音によってバランスを崩しにくいか、設置条件の変化にどの程度耐えられそうかを見通せます。実際、海外のショーなど、十分な調整時間を取りにくい環境でも、ひとまずまともな音で鳴っていたスピーカーは、後からSpinoramaのデータを見ると、そこから算出される予測スコアも高いことが多かったのです。

自分がこのスコアを参考にしたのは、音質の上限を知るためではなく、セッティングを詰め切れないときの下限を見極めるためです。「最高の音」を保証するものではなくても、部屋へ入れて短時間で大きく外さずに鳴らせるかを見る材料にはなります。

今回は遊びのシステムです。スピーカーと部屋の相性を一から探り、合わなければ選定からやり直す時間はかけたくありません。そこでまず、部屋へ入れたときに事故を起こしにくそうな機種を、測定データから絞り込むことにしました。

そうして候補を絞ると、Neumann KH310が残りました。Neumannが公開している周波数特性も、水平・垂直指向性も素直です。密閉型の3ウェイで、アンプを内蔵し、XLRの電子バランス入力を備えます。Neumann自身も、密閉型による低い群遅延と過渡応答の良さを特徴に挙げています。KC92と低域を分担させるうえでも扱いやすく、1本であれば価格もぎりぎり現実的です。ただ、決め手は数字だけではありません。

KH310は、高域の骨格がしっかりしています。モニタースピーカーの中には、高域を細かく繊細に描き分ける方向性のものがあります。それ自体は魅力ですが、今回作りたかったモノラルLP再生には、もう少し骨格のある高域が合うと考えました。

また、オーディオ向けスピーカーと比べたときに私が気にしやすい、モニタースピーカー特有の質感の硬さも、KH310ではそれほど強く感じませんでした。オーディオ向けスピーカーのように、きれいに磨かれた感触ではありません。それでも、特性の素直さ、高域の骨格、質感、価格を並べると、このあたりが現実的な着地点でした。

設置は、KH310本来の横置きではなく縦置きにしました。KH310のウェーブガイドは、横方向を広く、縦方向を狭くして、卓からの反射を減らすよう設計されています。今回は左右方向にターンテーブルがあるため、縦置きで横方向に指向性を狭くしました。ターンテーブル方向への放射を相対的に抑えられると考えたのです。

CE1TX系ではFlexでKC92だけを管理し、KH310系ではKH310を含む全出力を管理します。同じ2台のKC92を使っても、必要なゲイン、遅延、フィルターはまったく違います。設定をプリセットとして保存し、すぐに呼び出せるFlexは、ここでも便利でした。

縦置きした1台のKH310と、その足元に置いたモノラルLPのレコードジャケット。
KH310 1本で聴くモノラルLP再生

KH310を選ぶところまでは、頭の中できれいに進んでいました。接続して、電源を入れるまでは。

最初にKH310を接続して音を出したとき、待っていたモノラルLPの音ではなく、ノイズでした。

様々なノイズ対策

最初に使っていたのは、miniDSP Flex RCAです。KH310へ接続するとノイズが出たため、FlexのRCA出力へライントランスを入れ、XLRへ変換してKH310へ送りました。少しは良くなりましたが、ノイズは取り切れません。

さらに気になったのが、Flexの電源を切ったときです。FlexはCE1TX系のメインの信号経路には入っていません。それなのに、Flexの電源を切るとCE1TXの音が良くなるように感じます。Flex RCA側から何らかの成分がプリアンプを介してパワーアンプへ回り込む可能性は、疑った方がよさそうでした。

機器を1台増やすことは、信号経路を1つ増やすだけではありません。信号グラウンドの経路も増えます。プリアンプ、2台のパワーアンプ、2台のアクティブサブウーファー、Flex、KH310、さらにFlexのDC電源までが接続されるため、信号グラウンドの経路はかなり複雑になります。

問題は、耳にわかりやすいハムだけでもありません。DSPやスイッチング電源を含む機器を直結すれば、高周波ノイズやコモンモード成分が回り込む経路も生まれます。

そこでFlex RCAから、バランス入出力のminiDSP Flex TRSへ変更しました。さらに、プリアンプとFlexの間にアイソレーター兼ライントランスを置き、メインの信号経路とDSP/アクティブスピーカー側の信号グラウンドを切り離しました。

KH310へは、Flex TRSからTRS–XLRケーブルで接続しました。Flexのバランス出力とKH310のバランス入力を、余計な変換や出力トランスを挟まず直結しました。これで、KH310から聞こえていたノイズは出なくなりました。

トランスは鬼門—特に低域

脱線しますが、プリアンプとFlexの間のアイソレーター兼ライントランスに触れておこうと思います。周波数が低く、信号レベルが高くなるほど、トランスは磁気飽和を起こしやすくなり、歪みの条件も厳しくなります。1kHzの小信号が通ることと、20Hz近辺の大信号を低歪みのまま通せることは、別の話です。周波数特性だけでなく、入力レベル、歪み、位相までデータがなければ、低域補正用の信号経路には入れられません。

トランスはこれまで、ずいぶん使ってきました。ただ、MCトランスもライントランスも、結局いま残っているのはJensen Transformerのものだけです。私が重視したのは、低域での許容入力レベルと歪みが、データシートに明記されていることでした。Jensenは、周波数特性、位相特性、ノイズ除去性能まで含め、型番ごとに数値で比較できます。この用途では、それが決め手になりました。Jensenが最も確実な選択肢でした。

シングルエンド->バランス変換のライントランスでは、Jensen純正 ISO-MAX PO-2RXを多用してきました。ちなみに、PO-2RXに入っているのはJT-11-DMPCです。ところが今回あらためて調べると、なんと本国では生産終了となっていました。

そこで現行の完成品から選んだのが、Radial Twin-Isoです。入手した個体を開けて確認すると、搭載されているのはJT-11-FLPCHでした。Jensenトランス内蔵とうたっていても、PO-2RXと同じトランスではありません。

データシートを並べれば差は明確です。数字だけで音のすべては決まりませんが、少なくとも完全な代替品ではありません。その差を承知したうえで、現行で入手できる完成品としてTwin-Isoなら、まあ良いだろうと判断しました。

では、JT-11-DMPCを購入して自作すれば良いのではないか。あるいは、Jensenには、さらに高性能なJT-11-BMCFもあります。小信号を扱うMCトランスの自作も簡単ではありませんが、大信号を扱うライントランスはさらに厄介です。ステレオの2チャンネル分を1つのケースに収めるとなると、トランス同士の向き、距離、磁気シールド、ケース内の配置まで検証する必要があります。漏洩磁束を十分に抑えられなければ、チャンネル間クロストークが生じます。ケーシングすれば終わり、ではありません。そこまでに時間を使うつもりはなかった、というのが正直なところです。

Flex TRSへ替え、入口はTwin-IsoでプリアンプのRCA出力を受けてバランス化・絶縁し、出口はコールド・オープンでKC92のRCA入力へ戻しました。

TRSは、Tip、Ring、Sleeveの3接点を持つ6.35 mmフォーン端子です。Flex TRSでは、1つの端子で1チャンネル分のバランス信号を伝送します。

KC92のRCA入力へ接続するケーブルでは、TipをRCAのHotへ、SleeveをRCAのGroundへ接続します。Ringは未接続とし、ケーブルのシールドはTRS側でSleeveへ接続し、RCA側では開放します。miniDSPも、Flexのバランス出力をアンバランス入力へ接続する方法として、この結線を案内しています。

最後の決め手は電源

KH310から聞こえていたノイズは、バランス直結で消えました。ただ、Flexの電源だけはまだ腑に落ちません。純正ACアダプターで動かすと、この構成では低域が軽く感じられ、CE1TXの重厚な低域とも、KH310の質感とも、どこか整合しないところがありました。それ以上に面倒だったのが、DSP系のアース基準です。入力はトランスで絶縁する。KH310はCE1TXを使うときには使わない。KC92にもそれぞれアンプと電源がある。ACアダプターのままでは、どこを基準にしてノイズが回っているのか、整理しきれませんでした。

そこで、Flexの電源にはDC POWER BOX 12Vを使いました。自社製品なので手前味噌ではありますが、理由は単にリニア電源へ替えたかったからではありません。システム全体のアース基準を整理しやすくなることも、採用理由の1つでした。

試聴室のネットワーク接続構成図
試聴室20260731.pdfの2ページ目の音声系統図。プリアンプからCE1TX主系と、Twin-Iso、Flex TRS、KC92 2台およびKH310の制御系へ分岐する構成。
試聴室のオーディオシステム図

こうして信号系を作り直し、ようやくKH310の調整へ戻ることができました。

ようやくKH310を調整する

KH310のモノラル再生系では、CE1TXと違い、メインを含む全出力をFlexで管理できます。そこで教科書通り、KH310とKC92のクロスオーバー周波数とフィルター・スロープを揃えるところから始めました。ところがLPFとHPFを同じ定数にすると、ディップを抑えれば別のピークが生じ、その逆も同様でした。この部屋では、同じ値にするだけではうまくいきませんでした。

最終的に採用したのは、KC92が65Hz/Linkwitz-Riley 24dB/oct、KH310が77Hz/Butterworth 36dB/oct、KH310の遅延が14.7msという、非対称な組み合わせでした。定数だけを見れば、あまり整った設定には見えません。しかし、実際の部屋で音を出すと、こちらの方が整って聴こえます。

KH310単独とKC92 2台統合後の20〜160Hz周波数特性
KH310単独とKC92 2台併用時の低域比較

とくに、ジャズのドラムとウッドベースの実在感が増しました。1本のKH310から音像が立ち上がる形はそのままに、その下の帯域は部屋に持っていかれず、きちんと残ります。

サブウーファーを複数台使うことの意義

CE1TX系ではメインの信号経路に触れず、KH310系では全出力をFlexで管理しました。方式は違っても、目指したものは同じです。サブウーファーの存在感を出すのではなく、部屋に持っていかれた音楽の低域を取り戻すことでした。

これは今回のような専用試聴室だけの話でもありません。スピーカーや椅子を理想的な位置に動かせないリビングほど、別の場所に発音体を足す意味は大きいとも言えます。下まで伸びるスピーカーかどうかと、その低域が部屋の中で鳴るかどうかは、別の問題だからです。

結果だけを見れば、KC92を2台置き、FlexのDSPを使って、ステレオ再生とモノラル再生を両立しただけです。ただ、実際には、CE1が部屋の問題を暴き、ステレオ系が整ったあとにKH310がノイズを暴き、最後は信号グラウンドと電源まで組み直すことになりました。一つ解決すると、その先に次の問題が待っている。オーディオは、だいたいいつもそうです。自宅でCE1を10年以上鳴らし、試聴室へ移して、KC92を2台導入した。その過程で増えたと実感したのは、低音の量ではありません。これまでの知識を使って、部屋に対して打てる手の数でした。

現在の試聴室全景。左右のCE1TX、中央のKH310、左前方のKC92とレコードラックを配置。右後方にもKC92を置く構成。
現在の試聴室

測定・設定メモ

CE1TX系

項目 設定・接続
主系 プリアンプXLR出力 → AHB2 × 2 → CE1TX(Flexは通さない)
KC92 前方 −19.50dB/1.920ms
KC92 後方 −16.49dB/4.941ms
LPF 両機とも63Hz/Butterworth 48dB/oct
共通PEQ 37Hz −6dB Q3、35Hz −6dB Q5

KH310系

項目 設定・接続
KC92 前方 −8.3dB/0ms/LR24 65Hz
KC92 後方 −6.4dB/2.8ms/LR24 65Hz
KH310 +4.0dB/14.7ms/BW36 77Hz
KC92共通PEQ 20Hz −3.5dB Q3、38Hz −1dB Q3
KH310 PEQ 125Hz +2dB、175Hz −2dB、283Hz −2dB、624Hz −3dB